2025.4

コミュニケーションツールの進化年表

コミュニケーションツールは、私たちの社会とともにどのように進化してきたのだろうか。そしてこれから、どのように変わっていくのだろうか。
本作は、2021年に制作したneo connectionの年表をベースに、現在の技術動向や身体性、感情、空間といった観点を加えて再構成したもの。 過去を振り返りながら、未来のコミュニケーションの可能性を見つめ直すための年表である。

この年表では、単にテクノロジーの系譜を追うだけでなく、「人間が何を求め、どのように他者とつながろうとしてきたのか」という視点から整理している。
技術は常に中立ではなく、社会や文化、身体感覚、そして個人のささやかな欲求に根ざして生まれてきた。その変化のなかに、現在と未来のコミュニケーションの可能性を見出したい。



伝書鳩
B.C.5000?-B.C.2000?
手紙を運ぶ最初の通信手段の発明
遠くの相手に伝えたい
伝書鳩通信系
訓練された鳩が出発地点に戻る習性を利用し、手紙や情報を運んだ最古の通信手段のひとつ。
得たもの:遠くの相手に伝える手段
失ったもの:確実性・即時性
楔形文字
B.C.3000
人類が情報を記録し始め、文明の基礎が築かれた
記録として残したい
文字(シュメール)印刷系
粘土板に刻む楔形文字と、エジプトの紙素材パピルスに記録する技術が、初期の文書による伝達手段となった。
得たもの:情報の保存・再現性
失ったもの:識字能力がないと情報にアクセスできないように
B.C.2000
権威が情報を一方的に広く伝えるためのシステムが生まれた
権威・命令を広く伝えたい
石碑、布告、使者 印刷系
権力者の命令や法律を、石や金属板に刻んで広く周知するためのメディア。使者が移動して伝える形も併用された。
B.C.700
情報を即時に送りたい
狼煙(中国)通信系
煙や炎を使って遠方に情報を伝える古代の信号手段。軍事・防災などで、視界に頼って連絡を取るために使われた。
得たもの:情報通信の速度
失ったもの:情報量
木簡
7-8世紀
木片に文字を記して情報を伝えられ、行政・物流・教育の現場で活躍した
個人的な想いや用件を、書き記して届けたい
木簡(中国)印刷系
木の板に墨で文字を記してやりとりした、日本や中国の古代に使われた簡易な通信・記録媒体。
1445-1480
活版印刷により情報の大量複製が可能になり、知の共有が加速
大量に届けたい
活版印刷、新聞(ドイツ・ヨーロッパ)印刷系
鉛で作った活字を組み合わせて文字を印刷する技術。大量複製が可能になり、書物が広く普及する契機となった。
得たもの:知の拡散・再生産性
失ったもの:情報の希少性
1521
カメラ・オブスクラ映像系
画家が風景画を描く際、壁面に小さな穴を空け、反対側の壁面に外の景色が映し出されるという暗室が利用された
1793
腕木通信(フランス)通信系
1824
ヘリオグラフィ映像系
ニセフォール・ニエプスが世界初の写真である「ヘリオグラフィ」を発明
シリング
1830
シリング電信機 通信系
切手
1840
誰でも前払いで送れる通信制度が広まり、情報が身近なものに
個別に届けたい
郵便、切手 通信系
モールス
1837-1844
モールス信号と写真技術が生まれ、情報伝達の即時性と視覚性が進化した
遠くへ即時に伝えたい
モールス信号 通信系
視覚を記録したい
カメラ・写真 映像系
19世紀末までに記録媒体として写真フィルムが普及。 コンパクトで手軽に写真が撮影できるカメラが大衆化
得たもの:情報の即時性、映像性
失ったもの:主観性・余白
電話
1880
声を遠くまで届けることが可能となり、人の感情がより直接的に伝わる時代へ
声でやりとりしたい
光電話通信系
声をリアルタイムで伝える電話の登場により、時空を超えたコミュニケーションが現実となった。
得たもの:情報の臨場感
失ったもの:記録性
1906
声でやりとりしたい
ファクシミリ通信系
ドイツ人コルンとフランス人ベランがほぼ同時に写真電送に成功
1920
マスメディアによる情報の一斉配信が始まり、公共的な意見形成が始まった
一対多で届けたい
ラジオ放送 通信系
映像で伝えたい
テレビ、映画 映像系
得たもの:一対他の発信力
失ったもの:対話性・双方向性
1969
インターネットの起源。分散型ネットワークの誕生により、「誰かを介さず、誰とでも直接つながる」基盤が生まれた。
ネットワークで接続したい
ARPANET ネットワーク系
簡単に呼び出したい
ポケベル 通信系
ARPANETはインターネットの原型となる軍事目的のネットワーク。ポケベルは数字を使って個人間の通信を可能にした携帯型通知端末。
電話
1983
どこでも繋がりたい
携帯電話通信系
モトローラ社が世界最古の携帯電話を販売
1990
個人が情報を受け取り発信する環境が整い始めた
遠隔で情報共有したい
Eメール、BBS、ICQ ネットワーク系
インターネット上で文字による個人通信が可能に。メールや掲示板(BBS)、インスタントメッセンジャーICQが登場し、遠隔でも常時やりとりが行えるようになった。
得たもの:距離の克服
失ったもの:書き手の筆跡
1994
Theglobe.comネットワーク系
初期のSNS
2004-2006
SNSやブログで誰もが発信できる「双方向型メディア時代」へ
発信・共有したい
Blogger、mixi、Facebook ネットワーク系
個別通話・やり取り
Skype、Gmail ネットワーク系
ブログやSNSの普及により、個人が世界に向けて発信できる時代へ。SkypeなどIP通話も一般化し、コミュニケーションのコストが激減した。
得たもの:多対多の双方向発信
失ったもの:深い関係性・信頼性
iPhone
2007
タッチインターフェースと常時接続により、モバイルコミュニケーションが根本的に変化した
手のひらで世界とつながりたい
iPhone(初代) ネットワーク系通信系映像系
通話・ブラウジング・写真・SNSすべてを手のひらで扱える「情報端末としての電話」が登場。コミュニケーションの中心がデスクから身体へ移った。
得たもの:いつでもどこでも発信・受信できる自由/身体に密着した常時接続性
失ったもの:通信の意識的な選択/無接続でいられる余白
twitter
2010
モバイルSNSが浸透し、個人の感情や日常がリアルタイムで可視化されるように
より手軽に発信したい
Twitter、Instagram、LINE ネットワーク系
瞬間を共有したい
Snapchat ネットワーク系
スマートフォンとSNSが融合し、日常の一瞬を誰でも即座に発信・共有できる時代に。テキストから写真・動画・スタンプへと表現も多様化した。
2020
パンデミックを機にリモートでの会話・空間共有が一般化した
同時に繋がりたい
Zoom、Teams、Clubhouse ネットワーク系
体験を共有したい
VRChat、Spatial 映像系
リモート会議ツールやバーチャル空間での交流が一般化し、物理的な距離を感じさせない「同時存在感」のある対話が実現した。
2023
対話型AIの普及により、人間と機械の「会話」が日常的なものに
対話を深めたい
ChatGPT、Claude、Bard AI系
創造を支援してほしい
Midjourney、Runway AI系
空間的に繋がりたい
Apple Vision Pro 映像系
対話型AIが実用レベルに到達し、文章生成・翻訳・画像生成など多様なタスクを補助。Apple Vision Proなど空間コンピューティングの進化も加速。
得たもの:即時の生成・創造性の民主化
失ったもの:曖昧さ・不完全性
2030?
ハイパーパーソナルな翻訳・感情伝達
言葉の壁を超え、ニュアンスもリアルタイムで伝えたい
Whisper、EmoVoice、NeuroTranslator AI系
高精度音声認識と感情認識AIを組み合わせ、話者の意図やニュアンスを保持した多言語翻訳が実現。言語による「すれ違い」が限りなく減る。
2040?
感情や意識のレベルで人と人・人とAIがつながる未来
感情を理解・共有したい
Replika、Neuralink AI系
脳波で繋がりたい
NextMind AI系
人の感情や意識に寄り添うAI・ブレインマシンインターフェースが実用化され、言葉を超えた共感や理解が可能になる社会が模索されている。 会話履歴や感情傾向を学習し、ユーザー固有の関係性を持つAIが登場。相手との歴史が積み重なる“関係性のある対話”が実現する。
得たもの:関係性の蓄積とパーソナライズされた理解
失ったもの:相手の不可解さや、すれ違いの学び
2045?
実体のない空間同席
触れられなくても、一緒に“居る”と感じたい
Haptiverse Suit 映像系
視覚・聴覚に加え、触覚や空間座標を同期させる技術により、実際に「同じ場所にいる」感覚を遠隔でも再現可能に。
2055?
脳波インターフェースの家庭用化
思考を直接伝えたい
Neuralink、SynchronAI系
脳波を使って意図を読み取り、デバイス操作や簡単な言語表現まで実現するウェアラブル型のBMI(ブレインマシンインターフェース)。
得たもの:共感の補助
失ったもの:相手を理解できないということ
2080?
パーソナリティの共有化(仮想自己の複製)
自分をもうひとり、別の場所に存在させたい
デジタルツインの一般化・実用化AI系
自分の人格・嗜好・思考傾向を学習させたAIアバターが、別の環境で自律的に対話や判断を行えるように。
2100?
脳波や意識のクラウド共有によって、人間の境界が変わる時代へ
意識を共有したい
意識クラウド共有AI系
人間の意識や思考をクラウドで共有し合う未来構想。個々の存在を越えて知覚・経験・記憶がつながるポスト言語的な世界観を示している。
得たもの:経験の瞬間共有
失ったもの:内面性


※本年表の記載内容(年代・ツール・歴史的背景など)は、主に Wikipedia の各項目を参照して構成しています。